「お留守番、お願いね。
いってきまーす。」


「気をつけよ。」


景時の甘く蕩けきった顔が、玄関扉の向こうに消えた。
これで、いつものように明け方まで戻らないだろう。

薄く微笑んだうさぎは景時のYシャツを脱ぎ捨て、赤い着物を素早く身に纏う。

今夜こそ、決行するのだ。

景時には内緒の、夜の散歩を。

景時がオニを狩りに行ってから部屋を抜け出し、景時が帰る前に部屋に戻る。

完璧な作戦だ。
バレることはない。

うさぎはベランダに出て、ふわりと浮かび上がる。

ふと振り向くと、誰もいない白い部屋が自分を咎めているような気がした。

だが…


(許せ、景時。)


月が呼ぶのだ。
美しく、青ざめた、月が。

限りなく優しく微笑む、あの者が‥‥‥

うさぎは銀の流星になった。