「な……んで」



ようやく声を出した私は、黒崎くんを指さして後ずさる。



椅子にぶつかった拍子に座ってしまい、近付いてくる黒崎くんを見上げた。



私の椅子に足を引っかけた黒崎くんは、にやりと笑うと私の唇のすぐ近くで人差し指を立てる。



「内緒な」


「……っ分かってる、けど!」


「いやむしろ、なんで今まで気付かれなかったのかが不思議なんだけど」


「そんなっ、だって、まさか……」



わけの分からないことを言う私を見て、黒崎くんはまた笑う。



お隣の黒崎くんはスタイル良くて肌が綺麗で、だけど、オーラがなかった。



気付かないよ、そんなの……。



「鈍すぎんだろ」


「なっ、そんなこと」


「はい、とりあえず落ち着く。この姿でだっていつも会ってんだから」



そう言うと黒崎くんはにっこり笑う。



逆にどうしてそんなに余裕なの……。



不服そうな顔の私に気付いているはずなのに、何事もなかったかのようにメガネをかけて椅子に座り直してしまった黒崎くん。



もうこの話は終わりってことかな。



聞きたいことはたくさんあるのに。