こうしちゃ居られない!

ささっと退散せねばよね。

秋の匂いを漂わせた風がまたふわりと背中を

押すように体を包み込んだ。

灰色の髪は綺麗にさらりと靡く。

寝癖なんてない綺麗な灰色の髪は京君らしい。

途中でトランプのカードに滑ってつんのめって

転びそうになったところをスローモーションカメラ

を使用しているように態勢を戻した。

誰だ!!こんなところにトランプのカード一枚

仕込んだやつは!!

絶対に、怒ってやるわ!まぁ、いいや。

もっくんがいつも座ってる座布団の上に

乗せておいた。もっくんなら気付いてくれるだろうよ。

教室を出る間際振り返った京君との距離は

さっきよりもずっと遠くに感じた。

近くても遠くても同じように遠い。

近づける日なんて来るんだろうか?

京君はやっぱり一際距離を感じる人だ。

もう少し仲良しこよしになりたいけど、

照れ屋の京君のことだからきっと難しい。

豚が二足歩行するよりも多分。

まぁ、焦ることはない。

まだ、時間は十分に残されている。

せめて、それまでにはもう少し近づけるといいな。

ナル君までとは贅沢言わないから出来る

ことならみんなと近いぐらいが望みだ。

廊下を出て教室へと戻る道。

道草はそれ以上しなかったものの、

ボーッとしながら歩いてたためか

壁に何度も衝突してしまった。

途方もないぐらい遠い。

エベレストはまだ登り始めたところだ。

未だに分かってないこと。

今だからこそ知ってること。

確かに至難の業だ。

簡単にたどり着く方法なんてない。

自力で登りつめてもどれだけ時間が

掛かるか分からない。

だからって、逃げるつもりもない。

真っ向勝負してやろうじゃないか。

ちょっとやそっとじゃ諦めませんから。

そう意気込んだところで教室に着くと

殆ど準備が終わったサユと再会してその日は

早くも帰宅させてもらった。