「しつこい男は嫌われるよ。」

バシっと慶詩の背中を叩けばクツクツと喉を

鳴らして笑う慶詩。

「俺は女には困ってねぇ~の。」

糞野郎だなと思ったのは言うまでもない。

何て自意識過剰な男なのだろうか。

「さ、最低だな!!」

今の言葉は全部なかったことにしてやる。

微かにときめいたとは墓場まで持っててやる。

「お前1人ぐらい俺たちが手を焼いてやっても

いいって言ってんだ。」

「むしろ、あたしが世話をしてやってるのですが!?」

何て勘違いをしてくれちゃってるのだ。

ボスボス慶詩の背中を力ない手で叩く。

「お前も寝ろ。」

「・・・でも」

慶詩がゆっくり歩いてくれてるのは知ってる。

いつもドスドスなのに静かに落ち葉を掻き分けて、

校舎に向かっている。

「何も心配すんなよ。俺様が折角寛大な背中

貸してやってんだから素直に受け取りやがれ。」

口は最低なほど悪い金髪ライオン。

「ぐー」

「寝るの早ぇなおいっ」

広くて大きな背中は多分普段隠れてる優しさの

象徴なんだろう。

結局、慶詩が何したかったのかは未だ不明。

文句言いたいのか甘やかしたいのかただの

気まぐれでそう言ったのか風邪のせいにして

考えることはやめた。

ただ、慶詩の背中に揺られている中ふわふわと

した夢を見たような気がする。

大きな手が差し出されるようなそんな夢を見た。

その大きな手は知ってるような気がして、

手を伸ばそうと頑張っても届かないような

まどろっこしいじれったい夢だった。

「・・・・・・キ・・さん」

何か言ったような気もしなくはない。

それが何だったかとは覚えてなくて、

言ったことさえ覚えてない。