逃げも隠れもしないわ。

「なかったことになんてならないんだもの。」

そうでしょう?

逃げたって何にもならない。

逃げれば逃げるほど追いつめられる。

それなら、答えは簡単よ。

「あたしは家を守る。

そのためならあたしの将来なんてくれてやるって

そう決めたんだから考えは変わらない。」

「日和様、無理をなさってはいませんか?」

無理なんてしてない。

それがあたしの意志の強さだ。

「貴女が犠牲になることはないと思いますよ。」

犠牲になったわけじゃない。

それだったら、母さんの方がずっと犠牲になって

働いていたと思う。

「大和さんはあたしに何を望んでいるの?」

「貴女が幸せになることです。」

それじゃあ、どうやったら幸せになれるのか

教えて欲しいよ。

それがハッピーエンドかどうかなんて本人の

考えようでしょ?

紺色の空に浮かぶ月は薄らとした雲に覆われる。

海の細波が心地いいサウンドになり、秋の匂い

を告げるそよ風がふわりと窓から入ってくる。

潮の匂いと一緒に月の光が微かに差し込む

車内は外灯とともにに雰囲気を作り出す。

この月明かりの微弱加減の紺色の空に

雲がチラホラ浮いているように海の波

と同じように溶けてなくなってしまえ。

あの日の話が全てなかったことになれば

あたしは悩んだりすることすらないのに。

だけど、なかったことにはならない。

全てを掴みとる勇気を。

全てを捨てる勇気を。

全てを受け入れる勇気を。

あたしの強さに変えて頂戴。