「………お主の名前、しかと聞いたぞ。わらわの記憶に留めておく、光栄に思うのだ」
「はいはい。ありがとう、ルル」
どこまでも素直ではないルルの態度にくすくす笑ってしまう。
ルルは、何を笑ってるのだ、と怒っている。
「魔王様。準備が整いましたので、お送り致します」
今まで、魔界にルルたちを送る為の準備をしていた魔法使いが戻って来た。
「おお。すまないのだ、魔法使いよ」
「いえ。これも同盟国様への、礼儀です」
いつものニコニコした笑顔を向ける魔法使い。
「ウィッチ様、よろしくお願い致します」
キングと別れを済ませたのか、いつの間にかメイドがルルの側まで来ていて、魔法使いに頭を下げる。
「では、お二人とも行きましょう」
魔法使いは、用意した馬車まで2人をエスコートする。
「では、さらばなのだ」
馬車に乗り込む瞬間、ルルが私とキングに向かって笑う。
その後ろで、キングに寂しげな瞳を一瞬向けたメイドは、一礼をした後、ルルに続いて馬車に乗り込んだ。
「では、キング。後はよろしくお願いします」
「うん。頼んだよ、ウィッチ」
魔法使いは、本来ならば馬が繋がっているはずの馬車だが、馬の代わりにホウキが繋がっていた。
…なんだかちょっと滑稽な光景だ。
そのホウキに魔法使いが跨がる。すると、ホウキと共に後ろの馬車も浮遊した。
徐々にスピードのあがった馬車は、次第に遠く彼方まで飛んで行った。
「…いっちゃった」
ぽつりと呟くと、横にいたキングがにやにやしていた。
「寂しいのかい?死神ちゃん」
「んなっ!?」
「大丈夫。今夜は私が添い寝…」
「それじゃぁ、私は仕事が溜まっているから、行くわ」
キングの言葉を途中で遮り、早口に言った後、私は歩き出す。
「城に住めばいいのに」
「気が向いたら、来るわ」
キングの方をくるっと振り返り言葉を、続ける。
「ここ数週間、お世話になったわ。ありがとうキング。魔法使いが帰ってきたらよろしく言っておいて」
「久しぶりに城が賑やかで私も楽しませてもらったよ。必ずウィッチに伝えておこう」
「じゃあね、キング」
ふわっと、体を浮かび上がらせる。
「私の命が尽きる時は、君に任せたいな」
「ふふ。キングは死んでも死ななそうね」
「君やウィッチと違って、私は普通の人間だからなぁ」
「まあ、いいわ。その時がきたら、アナタの命奪わせていただくわ」
少しずつキングと距離が離れていく。
「かわいい死神ちゃん。寂しくなったらいつでも私は待っているよ」
そう言ってキングは、ふっと軽く笑った後、城へと戻って行く。
再び前を向き、空に向かって飛ぶ。
大分距離が進んだ時、城の方を見るとあんなに大きかった城は小さく見えた。
今までは、この小さく見える城が当たり前だったのに、今ではあの城の大きさを知ってしまった。
あそこにいたことが少し信じられなかった。
ここ数週間に起きた様々なことを思い出しながら、私はくすりと笑みをこぼした。