はぁーっと、白い息を吐く。
夜になると、マントだけではさすがに外は寒い。


「…………」


空を見上げる。いつもだったら、仕事に行っているはずなのに、今ここにいる自分が何だか信じられなかった。

ここ数日、ずっと城で魔王の子守り(というと、すごく怒られるが)をしながら毎日が過ぎていった。


不思議なことに、外にいた時よりも、魔法使いと出会す回数が少ない。
つまり、魔法使いは城の中より、外にいることの方が多いらしい。
……別に、会いたいって思ってる訳じゃないけど。





「おや、奇遇だねぇ」

「…キング?」



暗がりから、スッとキングが姿を現す。
月の光に照らされて、なんだかこの世から浮世離れしたような容姿に思わず見とれる。



「………」


「あんまり、熱い視線を送られると勘違いしちゃうよ?」

その言葉にハッとし、目を背ける。




「夜のお散歩かい?死神ちゃん」


「ええ、まぁ。普段、夜に仕事が多いものだから、寝れないのよ」



目を背けたまま言うと、キングが小さく笑ったのが聞こえたが、特に何も言わずそのまま会話続けてくる。



「そっか…、死神は本来夜に生きる者、だからね」


「まぁ、そうね。夜は闇に生きる者のテリトリーだからね」


夜空に視線を向ける。
今日も、誰かの命がなくなっているのだろうか。私たち、死神の手によって…。




「ああ、そういえば。随分と、うちのウィッチと仲が良いんだね。驚いたよ」


私の様子を黙って見ていたキングが、突然声をあげる。


「べ、別に仲が良い訳じゃないわ…っ!」


「そうなのかい?」


私が否定すると、驚いたようにキョトンとするキング。



「ただ、アイツが勝手に…」

「そう、それだよ」

「??」

何が何だか、キングの言いたいことがわからず、私は首をかしげる。



「あのウィッチが、他人に興味を持っている」

「どういうこと?」

「君は、ウィッチのこと、何か知ってるかい?」

「何かって…?」


何のことか、心当たりがなく聞き返す。



「…いや。知らないならいいんだよ。彼は、とても冷酷なヤツなんだよ」

「冷酷…?まさか。信じられないわ」

「はは。君が見ている彼はそうだろうね。本来の彼は、世界を一つ滅ぼしかねない存在なんだよ」

「………」

私は、ふと魔王に読んであげた絵本を思い出す。
孤独な魔法使い。『世界征服』。


何を考えてるんだと思い、頭を振る。



「たとえ、あの魔法使いがそうなのだとしても、私が見ている限りは、そんな風には見えないわ。私は、自分が見ている彼しか知らない」



互いに知らないことは、多い。でも、別にそれで構わない。



「そうか。ふふ、いらぬ事を喋ってしまったかな」


本当にね。と、キングに返す。