そうと知らずに、男はまた嫌な笑 顔を浮かべる。
「なぁに、この腕時計ってもんを 譲ってくれりゃあいいんだよ」
「……人のモンを盗るなんて、い い度胸だな」
「何だとてめぇっ! 攘夷のため に日々働いている我らに向かって 、何たる無礼な……!」
(は……? 攘夷……?)
一瞬、私に噛み付いた男の言葉に 引っ掛かりを覚えるものの、強行 突破するしかないと思った。
(あんまり使いたくなかったけど ……)
右手で支えていた荷物をゆっくり と、下に下ろす。
「あ? なんだ、やっと渡す気に なったのか?」
ニヤニヤと群れの中にいる男達の 一人がそういうが、決して私はそ ういうつもりはない。
すー……と、鼻で息を吸い込むと 、掌の一点に意識を集中させる。
男達の視線が突き刺さるけれども 、それに構ってはいられない。
掌に何かを感じ取ると、その右手 を、未だに腕を掴んでいる男の下 腹部に叩き込む。
ドンッ!……と、すごい音を立て て男の身体が後ろへ吹き飛ぶ。
そして、さっきのおじさんと衝突 する。
「んなっ!?」
さっきの発勁(はっけい)を見て、 男達はざわつき始める。
「吹き飛ばされたくなきゃ、どけ よ」
もう一度脅すけど、男達はそのま まだった。
(めんどくさいなぁ、もう……)
とりあえず、荷物を持って、彼ら の横を通り過ぎた。
それからまたいくつかの角を過ぎ た頃だ。
「てめぇっ! 待ちやがれぇっ! 」
「うえぇぇっ!?」
どういう訳か、彼らから追い回さ れる羽目になってしまったのだ。
そして、冒頭の状態になるのだっ た。


