「なあ、綾瀬。俺の・・・俺の成瀬を頼んだぞ。」

「いや、お前のじゃないから。あと、発言の内容に気を付けろ。」


皆は魔法にかかるだけでは満足せず、今度は魔法をかけようとする。


「綾瀬さん。告白と一緒に無理矢理キスしちゃえ~~~。」

「それは、あんたのやり方でしょ?それで、後輩にフラれちゃったじゃない。綾瀬さんは自分のやり方で頑張ってきてね。応援してるから。」


かかる人は、私。服が急にドレスになったり、ガラスの靴を履いたり、カボチャが馬車になったりみたいなことは無かったけれど、


「ありがとう。頑張ってくるから。ちゃんと想いを伝えてくるから。」


皆は、成瀬君に会う為の情報と、時間と、応援で、私をドレスアップしてくれた。


「綾瀬。今日の英語の授業は比較級をやる予定だったんだ。『~よりも~のほうが』ってやつ。中学の時にもやっただろう?」


先生が口を開く。さっきから授業が中断されているのに、授業を始めようとせず、私に語りかける。


「これから綾瀬がしようとしてる事は、今日の授業よりも百倍、いや、千倍の価値がある。だから悔いのないようにな。・・・いや、俺の授業が凄くつまらないとか、そういう意味じゃないから!!」


先生の許可が下りた。行ってこいと、悔いのないようにと。席を立って、教室の外へ出ようとする。授業中に外に出るなんて、ちょっと悪いことをしているようでドキドキした。


「コト!!」


ミィの声。振り返る。銀色の軌跡が放物線を描く。到達点は私の手のひら。


「256番。自転車置き場の端っこにあるから使って。成瀬君にコトの本気見せてやれ!」


「うん!!いってくる!!」


ミィから貰った自転車の鍵を、強く強く握り締める。7割の歓声と3割のひやかしを、全身で受けながら自転車置き場へと走り出した。