成瀬君を屋上の中心部へと連れてきた私は、手を優しく離して、少し距離を取る。
音楽の途中からダンスを始めるわけにもいかず、1曲終わるまで待つことにした。
ちょうど半分を過ぎた所だから、時間にして1分くらいだろうか。
つまり、1分後には、成瀬君と踊っているわけで。
そして、それを意識してしまうと、自然と緊張してくるわけで。
だから、1分間のクールダウン。距離を取ったのは気持ちを落ち着ける為と、踊るのに最適な位置取りをする為。
息を大きく吸って吐いてを繰り返し、自分は大丈夫と言い聞かせる。
「綾瀬。」
ずっと喋っていなかった成瀬君が、私をしっかりと見つめて、私の名前を呼ぶ。
どうしたの?と目で返事して、先を促す。
「……ありがとう。何かよくわからないけど、モヤモヤしてたのがスッキリした。」
私が大好きな、あの笑顔が戻ってきた。ふにゃっとしてて、いい感じに笑いジワができている、あの笑顔に。
「ううん、いいよ。私がやりたくて勝手にしたことだし。ちょっと元気出たみたいで良かった。」
首をブンブン振りながらも、その笑顔から目は外さない。私だけに向けられているそれを、1秒でも長く見ておきたかったから。
音楽は中盤から終盤へ。最後の盛り上がりの部分を終えて、ゆっくりと終わりへと近付いていく。
「ちょっとじゃなくって、かなり元気出た。だから今日は目一杯踊ろう。」
そう言って、手の平を私に向けながら、
「綾瀬 琴さん。俺と踊って下さい。」
私にとって、最高に元気が出る言葉を掛けてくれた。
音楽が終わって、静寂が場を支配する。でも、これは私達にとって終わりではなく、始まりの合図だ。
はい。と静かに返事して、手をそっとのせる。数秒間の空白の後、再び音楽が鳴り始め、私達2人の時が動き出した。


