容赦なく力技で握り潰す勢いで手に力を籠めると。


「分かった、……分かったから」


パッと絢の手が離された。

尚も鋭い視線を向けたまま、

佐伯の手をわざと突き放すみたいに押しやって。


「俺ら、大事な話をしてるから、神宮寺くんは先に帰ってて貰える?」

「断る」

「は?」


何様のつもりなんだろうか?

彼氏である俺の前で、

あたかも自分の彼女みたいな扱いしやがって。


「俺ら、ずっと前から知り合いだから」

「知ってるよ。ってか、お前が『幼馴染』だって言ったんじゃん。もう忘れたのかよ、その頭、脳みそ入ってねぇの?」

「ッ?!」


売り言葉に買い言葉。

俺に口で勝てると思うなよ?


「絢、こんな奴のどこがいいんだよ?めっちゃ口が悪いじゃん」


否定はしないけど。

だけど、卑下される筋合いはねぇ。


「いい加減、現実見ろよ。絢が嫌がってるし、俺のことが『好き』だって言っただろ。お前の出る幕ねぇんだよ」

「っ……」

「絢、帰るぞ」

「あ、うんっ」


絢の手に指を絡ませ踵を返し、

数歩歩き出した所で軽く振り返って……。


「言い忘れた。俺ら、婚約してるから。今後一切、俺の婚約者に言い寄るなッ」

「ッ?!はぁ~?!」


人差し指を奴に向けて言い放ち、再び歩き出す。

そして、渡り廊下の角を曲がろうとした、その時。


「それと、俺の女を気安く呼び捨てにすんなっ!胸くそ悪ぃんだよッ!」