風呂から上がり、リビングに行くと

母親が血相を変えて駆け寄って来た。


「慧っ。うっかりしてて、絢ちゃんに理恵ちゃんのこと、知られちゃったんだけど……」

「は?……え、何で?」

「慧たちのビデオ観てて、その流れでアルバム見たいって流れになって……」

「………」

「たぶん、感づいたと思うから、気遣ってあげて?」

「……ったく、余計なことしやがって」

「ホント、ごめんね……」


母親は拝む勢いで両手を合わせた。


母親が言う『理恵』というのは、俺の許嫁だった子。

元々、父親の会社の専務で、

父親と大学時代からの親友だった人の娘。

父親が祖父から会社を受け継ぎ、

順風満帆に経営してたんだけど、

その専務が、会社の金を横領して逃走した。

もちろん、直ぐに逮捕されたんだけど。

それを機に、もちろん許嫁という関係も解消した。


元々、『許嫁』なんていう関係自体、

幼かったこともあって受け入れられなくて。

1つ年下だった理恵の面倒は見たけれど、

特別な感情を抱いたことは一度もない。

というより、兄貴が理恵のことを好きだったから、

俺はあえて距離を取ってたように思う。

それもあって、兄貴は俺に常に牽制体勢を取るようになった。