「まぁ、別にそれは問題じゃないんだけど、」
いつものアルに戻ったように、ハハッと軽く笑う。
「それはいいんだけどさ、」
彼女が目を落とした。
「なんか、ピリピリしてるっていうか、殺気立ってるっていうか…」
だんだん、アルの声が小さくなっていく。
「……近づきがたい…」
カラン、とコップの中にある氷が音を立てて崩れた。
「そこにいるのは確かにジルの筈なのに、ジルじゃないみたいだ…」
もしかしたら、こんなに切ない表情をしている彼女を見たのは、今日が初めてかもしれない。
アルは肘をついて、片方の手の指で水滴がついているコップの外側を触る。
「ジルだけじゃないんだよなぁ…」
「……………………」
「ギルもシローも」
ここは食堂で周りがうるさいはずなのに、今だけ周りの声が聞こえない。
彼女が息を吐いた。
「あたしが任務から帰って来た時には、もうそんな感じになってて」
ふと、私が図書館で読書をしていた時に、ジルがギルを探していたことが脳裏をかすめていく。
「……………………」
もしかして、そのことと今アルが言ったことと、何か関係があるのだろうか。
「なんか、あったのかな…」
ポツリと、彼女が呟く。
「知りたいんだよ、ばか」
そして多分、私にも聞こえないように言ったんだと思う。
…聞こえてしまったけど。
「あんなにジルが怖いの…初めてだ」
「……………………」
「……………………」
そして彼女は、愚痴のようになってしまったと、眉を八の字にして私に言い、先に自室に戻ってしまった。
「……………………」
アルに言われたことを思い出しながら、ぼんやりする。
『あんなに怖いの…初めてだ』
さっき彼女が言った言葉が私の頭の中でずっとリピートされる。
「きゃぁッ」
だけど、ガシャンというガラスの物が地面に叩きつけられて割れたような音が、おばちゃんのいるカウンターの奥からして、私の思考は雲散霧消となってしまった。


