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真っ白な廊下に私がポツンと一人、取り残された。
『大丈夫。〝母は強し〟って言うでしょう?』
彼女はベットに横になったままそう言い、赤いランプが点く部屋に吸い込まれるようにベットごと入ってしまった。
『……ヤだなぁ…』
ポツリと、口の間から出てきた言葉。
もう、早く終わればいいと思った。
母が帰ってこないこの時間も、父がいないこの世界も。
全て、何もかも終わればいい。
なんて考えて待合室の椅子に横になる。
『こんなとこで寝てたら風邪ひくよ』
滲んだ視界で、あやふやになった頭に響いた、母に似た優しい声。
それと共にシトラスの匂いが香る、ずっしりとした質量のある物が私を包みこみ、冷えた私の体を温めた。
『次はあんたが風邪ひく』
『あら、私の心配するの?』
『……別に』
『明日は槍が降るわね』
『…………………』
ぼやけた頭の中に、少年のような声とその女性の会話が入ってくる。
『………だってあんたは―—』
そして彼が何て言ったのかは分からない。
頭が真っ白になったから。


