彼に触れられるのが嫌なわけではない。ただ、その手では触れないで。
 他の女性とお揃いの、シンプルなリングを嵌めた、その左手では……。

 熱めのシャワーを浴びながら、初めて彼と関係を持ったときのことを考えていた。

 あの時も、先にシャワーを浴びてきた俊さんは、仄かに汗の香りが残っていた。

「ボディソープ、使わないの?」
「嫁に感付かれるだろ」

 素朴に感じたことを、思ったままに口に出し、すぐに後悔した。あの時の俊さんの気まずそうな顔は、憧れの人に抱かれ浮かれていた私の心を急速に冷やすには十分すぎるものだった。