脱力系彼氏

 夏陽が差し込む病院は、あまりに明るくて、壁やシーツの白が余計に強調されて見える。夏の病院は、本当に皆病人なのか、と疑ってしまうくらい賑やかで、その上、蝉の鳴き声までもが、窓を破って響いていた。何度もうるさいと思った蝉は、どうやら、病室に1番近い木に留まっていたらしく、昼間は毎日のように鳴き声が聞こえてきた。

でもここ数日、遠くの蝉の声しか聞こえてこない。

あんなにうるさかったくせに、いざいなくなると、何だか物足りなく感じてしまう。命って儚いものだ、なんて少し感傷的になってしまう。

あたしは窓からテレビへと視線を戻した。

「綾ちゃん、今日もちゃんと食べてるじゃない」

テレビを見る間もなく、あたしは食器を回収に来た看護士さんに目を移した。

「最近、ちゃんと食べてくれるようになったよね。嬉しいわぁ」

「食べて、早く治したいから」

そう言うと、看護士さんは驚いたような顔をした。

「凄く嬉しいけど……、どうしたの? 急にそんな事言うなんて」

あたしはニヤけるのを抑えきれずに、看護士さんの顔を見た。

「看護士さんにだけ、教えてあげる。あのね……」

看護士さんが嬉しそうな顔で耳をこちらに向けた時、聞き慣れた音が聞こえてきて、あたしは慌てて声を顰めた。

近付いてくる、全くやる気のないビーチサンダルの足音。足音だけで分かってしまうなんて、あたしって、ストーカーみたい。

看護士さんは小さくて早口なあたしの言葉を聞き逃さなかったらしい。にっこり笑って、緩む口を押さえた。

入口に昇ちゃんの姿が見え、あたしは看護士さんに目配せした。

「じゃあね」

看護士さんも口が緩むのを抑えられないらしく、ニヤニヤしながら、あたしのベッドから離れていった。昇ちゃんは興味がなさそうに、ニヤニヤする看護士さんを一瞥して、気怠そうにベッドの方に歩いて来た。

タンクトップにジャージ。夏休みの昇ちゃんは、いつもに増して、かなりやる気のない格好だった。