脱力系彼氏

「あ、れ?」

聞き慣れた声が聞こえ、あたしは病院の入口に目を移した。

「冴子」

冴子は両手いっぱいに何かの袋を持って、入口で突っ立っていた。いつものようにカツカツと踏み鳴らしながら、ベッドに近付いて来る。じっと不思議そうな顔で昇ちゃんを見た。

「羽鳥、何でここにいんの?」

「見舞い」

冴子は交互にあたし達の顔を見ると、何か納得したらしく、ふぅん、と言いながら椅子に座った。
様子を窺いながら、冴子にお礼を言いたくて、あたしは弱々しく声を出してみた。

「冴子、あの、ありが」

「じゃじゃーん!」

偶然なのか、わざとなのか、冴子はニヤリと笑い、ガサガサと袋を漁った。

冴子の手には、美味しそうな色のモモが。

「何ソレ?」

「見たら分かるでしょ、モモ」

「違う、そういう意味じゃなくて」

「お見舞いに決まってるでしょ」

「お見舞いといえばリンゴ、じゃなかったっけ?」

キョトンとした顔でその果実を見つめていると、冴子は小さく舌打ちした。

「リンゴはもういいの! それより、モモだよ! モモの方が、簡単に皮剥けるでしょ?」

それが理由か!
笑いを堪えずにはいられなくて、横にいた昇ちゃんまでが、ほんの少しだけ笑っているように見えた。


でもね、本当は凄く感謝してる。

昇ちゃんも大好きだけど、冴子には敵わない。

本当にありがとう。



「うるっさい! 笑うな、バカップル!」