脱力系彼氏

「ね、昇ちゃん」

あたしの声に反応し、昇ちゃんは目をあたしに向けて返事をした。

「どうして、停学になったの?」

正直、これはかなり気になっていた。面倒臭い事を何よりも嫌う昇ちゃんが、停学になるような事を、避けないはずがない。煙草は吸っていないし、考えられるとしても飲酒くらいだと思う。その他は、多分、論外だ。だから、あたしには不思議で仕方が無かったのだ。

「……」

昇ちゃんは視線をじっと布団の方へ向けたまま、黙っている。

「……めんどくさい?」


何となく分かる、この感じ。面倒臭い訳じゃなくて、考えているんだと思う。



「……殴った」

「え……? ……えっ?!」

あたしは2度、聞き返した。
だって、昇ちゃんが?

聞き間違いだと思い、ポカンとしたまま昇ちゃんの返事を待った。けれども、昇ちゃんは口をきつく結んでいて、もう、開いてくれそうにない。

恐る恐る、その不確かな言葉を繰り返してみた。

「な、殴った?」

物凄く間抜けな声だったけれど、それどころじゃない。全神経が、目の前の男に集中させられている。昇ちゃんは目を逸らしたまま、眉を顰めた。

「……」



嘘でしょう? 本当に?


「だ、だだ……っ、誰をっ?!」

驚きが隠せる訳もなく、ひどく吃ってしまった。急に動かしたせいで、骨折した足にも痛みが走る。でも、それどころじゃないのだ。全てを後回しにして、あたしは昇ちゃんの答えを待った。