いや、待て。それどころじゃない。忘れかけていたけど、あたし、安心している場合じゃない。

あたしは急に現実へ戻された気がして、怖くなって、昇ちゃんのカッターシャツをぎゅっと握り締めた。

「ねぇ、あたし、安心していいのかな?
 あたし、まだ、昇ちゃんの彼女?」

つい、小声になる。昇ちゃんは目を揺らして、低い声を出した。

「おー」

……良かった。あたし、ちゃんと昇ちゃんの彼女だった。まだ、昇ちゃんの彼女だ。

心から安堵の溜め息が漏れ、それから、昇ちゃんの眠そうな赤い目を見つめた。いつもと変わらない、気怠そうな目。なのに、今日は優しく見える。

「ねぇ、聞きたい事がいっぱいあるの」

今度は、目を逸らさなかった。昇ちゃんは黙ったまま、あたしの目を見ていた。

「今日だけでいいから、面倒臭がらずに、本当の事を教えてほしいの。面倒臭がらずに、答えてほしい」

昇ちゃんは黙っている。でも、あたしはもう、逃げたくない。

「……面倒臭い?」

自分でそう聞いたものの、不思議と不安はなかった。昇ちゃんの目が、あたしを見つめたままだったから。今までに見た事ないような、真剣な眼だったから。