昇ちゃんは黙ったまま首を横に振り、埋めていた顔をそっと上げた。あたしも昇ちゃんに合わせて顔を上げる。

昇ちゃん、目が赤い。

やっぱり、泣いてたのかな?
それとも、これもお酒のせいなのかな?

よく見れば、ひどい顔だ。額は汗だらけだし、綺麗な顔に似合わない髭まで、チクチクと生えている。髭を剃るのまで、面倒臭くなっちゃったのかな、なんて思えば、自然と笑えてきた。

全然かっこよくない姿だけど、やっぱり、あたしにはあの俳優よりも、どんな人よりも、世界で1番かっこよく見えてしまう。

1番、愛しいと思ってしまう。


昇ちゃんは親指でそっとあたしの止まらない涙を拭った。力加減が出来ない、不器用で、どこか優しい、大きな手。


「ねぇ、昇ちゃん」

あたしが小さく笑うと、昇ちゃんは眉を浮かせた。

「学校は?」

「……終わった」

「走って、来てくれたの?」

少し離れた昇ちゃんの顔を見上げると、昇ちゃんはコクリと頷いた。あたしは、胸がいっぱいになって、唇の下がヒクヒク動いたのが分かった。


「よかったぁ。停学って聞いたから、課題とか面倒臭いし、もう、学校やめちゃったかと思った……」

昇ちゃんは小さく笑って、何も言わずに首を横に振った。昇ちゃんの笑顔、初めて見た気がする。


あたし、やっぱり昇ちゃんの事、何1つ分かっていない。

昇ちゃんがこんなにも優しく笑うなんて、知らなかった。