あたしの顔が埋まる昇ちゃんの肩は、大きく揺れている。まだ息が荒い。

ここまで、走って来てくれたの?
……面倒臭く、なかったの?


昇ちゃんの背中は汗でびしょびしょになっていて、シャツを握ると、手に自然と湿気が籠った。

あたし、昇ちゃんに抱き締められてる。初めて、抱き締められてる。


歌詞によく“壊れるくらい抱き締めて”なんてフレーズがあるけど、今のあたしは冗談でもそんな事は言えない。昇ちゃんは、苦しいくらい強く、抱き締めている。あんまり強くて、肩が潰れちゃいそうだ。
あんなに力が入らなかった腕で、出来る限り強く、昇ちゃんの背中を抱き返した。

少し汗の匂いに混ざって、昇ちゃんの温かい匂いが利かなくなった鼻をくすぐる。


ねぇ、昇ちゃん。

やっぱり、あなたが好きだよ。


涙が止まらなくて、言葉にならなくて。


小さく「うぅ、」と声を漏らして、昇ちゃんの骨張った固い肩に、涙で溢れた頬を強く擦りつけた。