脱力系彼氏

 栄養不足がひど過ぎて、幻覚まで見えるようになってしまったのだろうか。

昇ちゃんが、いる。


時間は止まってしまったはずなのに、心臓はゆっくりゆっくり確かめるように脈打っている。確かに時は止まっていなくて、これが現実なんだという事を理解するには、あたしには、少し栄養が足りない。

昇ちゃんは、髪もボサボサで、制服のカッターシャツだって、かなり乱れている。信じられないくらい汗を掻いていて、汗で髪がびしょびしょになっている。

あたしと目が合うと、時間が進み始めたかのように、昇ちゃんは肩を上下させて病室のドアにもたれかかった。

「なん、で……」

あたしの声は余りにも弱々しくて、熱い涙が、冷えきった頬を流れていくのが分かった。

昇ちゃんは顔を上げると、少しだけ大きく息を吐いた。もし、あたしの勘違いじゃなければ、あれはきっと、安堵の溜め息。少しだけ顔が緩んだ気がしたから。


あたしの頭の中は、もう、真っ白で、昇ちゃんしか見えていない。


昇ちゃん、来てくれた……