騒がしい蝉の声。1週間しか生きられない命を、精一杯に生きているはずなのに、うるさくてイライラする。ギラつく太陽は歪んで見えるし、親戚のおばさんが持って来た花瓶の花も、濁った茶色にしか見えない。


「綾ちゃん、御飯はちゃんと食べないとダメだよ」

担当の看護士さんが困った顔で、あたしの食器を片付け始めた。聞こえているけど、返事をする気になれない。今日は、特に吐き気がする。

「昨日も一昨日も、全然食べてなかったじゃないの。身体に悪いよ」

だって、食欲がないんだもん。
それに、あたしの口には合わない。

ここ2日、冴子が剥いてくれたリンゴしか食べていない。

「随分、顔も痩せたんじゃないの? 食べないと、治るものも治らないよ?」

……うるさい。
心配してくれるのは嬉しいけど、もう、放っておいてほしい。

今日は、本当にひどい吐き気だ。
足の調子も、どこか悪い気がする。


「顔色、悪いよ?」

あたしは、ゆっくりとギプスで固まった足を動かした。重くて、力を入れても沈んでいく。やっぱり、栄養が足りていないのかな。

それでも足を引きずって、あたしはベッドから下りた。