優しい歌声が聞こえてくる。

天使の歌声?

そう思ってみたけれど、聞き覚えがあるから、違う。

大好きなharuの歌声だ。


冴子がサインを貰ってきてくれる頃には、あたしは、もう、この世にいないかな。

あ、そういえば、冴子の電話、無視したままだった。謝りたかった。冴子には、感謝してもしきれないほど、恩があるって言うのに、何1つ、お礼を言えていない。

あたし、本当、自己中だ。



冷たい手に、温かい熱が灯る。こんなにも温かいのに、もし、これが悪魔の手だったとしたら、どうしよう。

お前は羽鳥昇に「触んな」なんて、酷い事を言ったから地獄行きだ、とか何とか言って、あたしを連れて行くつもりなのかな。
熱湯に入れられるのも嫌だけど、針山地獄も嫌だなぁ。

それなのに、手があまりに温かくて、ついていきそうになる。

ダメダメ。あたし、地獄行きは嫌だよ。


けれども、悪魔の手は逃がさん、とばかりに、強く、あたしの手を握る。


嫌だってば。地獄なんか行っちゃったら、冴子や昇ちゃんの事、見守れないじゃないの。

なのに、悪魔は、とうとう重いあたしの手を持ち上げた。

……さっきから、嫌だ、って言っているじゃないか。連れていくなよ、バカヤロウ。放してくれ。あたしを放っておいてくれ!


「……っだから、地獄行きは嫌なんだってばぁ!」

しつこい悪魔にあたしが叫ぶと、悪魔はあたしの頬を、バチンと張り倒した。

「黙れ、この馬鹿!」

驚いて目を開く。

全然暗くも汚くもないし、真っ白な天井でむしろ天国に近いって感じ。だけど、目の前にいるのは、天使でも悪魔でもない。冴子だ。

「あれ……? 悪魔……?」

「誰が悪魔だ! 地獄に落とすぞ、お前」


……いや。やっぱり、悪魔かもしれない。