あたし達が近付くと、別れを遮るかのように青いランプが点滅し始めた。
もちろんあたしは急いで渡るはずも無く、足を止めた昇ちゃんの横で、ぴたりと立ち止まる。あたしが昇ちゃんに追いつくと、タイミング良く信号は赤に変わった。

いつものように、道路にも歩道にも人気は無く、信号なんか無視しようと思えばいくらでも出来た。だけど、あたしが足を進める訳もなく。

名残を惜しむように、あたしは背の高い昇ちゃんの顔を見つめた。

「ねぇ」

昇ちゃんはチラリと横目であたしを見た。まだ酔いは覚めてるはずもなく、目が血走っている。

「キスして、いい?」

逸らしそうになる目を必死で堪え、昇ちゃんの顔をじっと見つめる。けれども、あたしの緊張なんかお構いなしに、昇ちゃんはいとも簡単に、目を逸らす。

信号を見つめているらしく、黒いはずの瞳には、赤い光が映し出されている。


「……やだ」

昇ちゃんの声を掻き消すように、凄いスピードの車が信号を曲がっていった。少し涼しい風が吹いて、2人の髪を同じ方向に揺らす。

「ね、ちょっとだけ」

「やだ」

「どうして?」

「めんどくさい」


……何だ、ソレ。

いつもならここで引き下がるけど、今日はもうちょっと粘ってみようかな、なんて小さく思ってしまう。あたしは馬鹿だ。