ジリジリと、焦げ付くような虫の声が響く夜道。あたし達の影は、規則的に並ぶ外灯で、伸びたり縮んだりしながら、少しずつ昇ちゃんのアパートを遠ざかっていく。夜風なんか全くなくて、やっぱり外は蒸し暑い。

優しい月明りまでもがあたし達を照らし、心なしか暗くない気がする。それでも、前を歩く昇ちゃんの横顔は見えなくて、やっぱり暗いな、なんて当たり前の事を実感した。


「ね、昇ちゃん」

「ん?」

「天の川、まだ見えないかな?」

昇ちゃんは、前を向いたまま黙っている。きっと、答えに困ってるんだろうな。

だって、七夕は、とうに過ぎてしまったもの。

それでも星が綺麗で、あたしはついそんな期待をしてしまう。昇ちゃんと一緒に、天の川を見られたらいいな、なんて。

でもきっと、こんな困る質問をされても、昇ちゃんの返事は変わらない。

「……おー」

これじゃ、どっちの意味の「おー」なのか分からない。あたしはバレないように笑いながら、その丸い背中を追う。
昇ちゃんくらい背が高ければ、曲がった猫背もなぜか広く見えてしまう。


きっと、あたしにしつこくお願いされるのが面倒臭いからなんだろうけど、舌打ちしながらも、いつも送ってくれる。


ねぇ、でもきっと面倒臭いからだけじゃないよね?

その優しさはあたしに向けられてるんだって、思っていいんだよね?


夜空の星は変わらないのに、少しずつ景色は移っていき、昇ちゃんと一緒にいられる時間は着々と減っていく。あたしは見慣れた信号を見て、溜め息を吐いた。


いつものお別れの場所。