外にはもう、月が綺麗に出ていて、窓から見える物寂しげだった情景も、電柱や団地の光が暗闇を照らしていて、どこか温かいものになっていた。

あたしはふと、テレビの上にあるデジタル時計を見た。時計には、機械的な文字で【23:17】とある。

あたしはその文字を見て、小さく溜め息を吐いた。もうそんな時間なのだ、と。


「昇ちゃん」

声を掛けると、昇ちゃんはテレビを見つめたまま、「あ?」と言った。

「あたし、もう帰らなきゃ」

昇ちゃんは、何も言わずにビールを口に運んだ。きっと、この先の事を考えてる。

それでも、あたしは昇ちゃんの考えなんか気にせずに、血走った、いつもより怠そうな目を見つめた。

「途中まで送ってほしいな」

瞬時に昇ちゃんの眉は歪む。
面倒臭い事は、何よりも嫌いだから。
それが分かっていても、あたしは昇ちゃんともう少し一緒にいたくて……甘えてしまう。


「ね、もう暗いから。お願い」


昇ちゃんは小さく舌打ちして、眉を顰めたまま、4本目の缶ビールをぐっと飲み干した。飲み終えた缶をテーブルに置き、リモコンの電源ボタンを押す。

さっきまで、この家の唯一の音だったテレビが消え、部屋は一気に静まり返ってしまった。遠くで、地中の虫が鳴く声が聞こえる。


昇ちゃんは荒々しく髪を掻いて、少しふらつきながら立ち上がった。

「早く、しろ」

あたしは嬉しくて、つい、笑みが零れてしまった。

「ありがとう!」