脱力系彼氏

 外はどんよりした色の空になっていて、夕陽は、もう、遠くの影にほとんど沈んでいた。ちらほらと外灯に灯りが点り、蒸し暑い蝉の声もすっかり止んでいる。

あたしは短い道程をニヤけずにはいられなくて、昇ちゃんの左後ろを小さい子のようについて歩いた。

「ね、昇ちゃん」

「あー?」

「……手、繋いでいい?」


「……やだ」

「なんで?」

「歩きにくい」


……なんだソレ。


普通なら、怒る所なのかもしれないけど、あたしには笑けてしまう。

どんなに面倒臭いと言われても、あたしにはこの人が愛しくて仕方が無い。


「ね、ちょっとだけ」

「めんどくせー」

「お願いっ」

「……」


無視かい!

もう答えるのも面倒臭くなってしまったみたいだ。あたしは、また笑けてしまう。


昇ちゃんは黙ったまま、ズルズルと足を動かしている。昇ちゃんが歩く度に、微かに小銭の音が聞こえてくる。あたしは思わず吹き出してしまった。

「ぷっ」

「あ?」

昇ちゃんはまた眉を顰めて振り向いた。

「しょっ、昇ちゃっ……! 小銭っ、チャリンチャリン、鳴ってるっ……! あはは……っ!」

もう、笑いが止まらない。だからちゃんとレジで小銭も出せばよかったのに。

「おかし……可笑しいよっ!」

昇ちゃんはふて腐れたような目であたしを見て、ぷいと前を向いた。

「うるせっ」

1人声を殺して笑いながら、前を歩く昇ちゃんの後を追った。


ねぇ、あたし、きっともうその優しさから抜け出せそうにないよ。

その、ぶっきらぼうな話し方や適当すぎる格好でさえ、こうも温かくて愛しい。