脱力系彼氏

 幸運にもレジは空いていて、麦茶とお酢の入った重い籠をずっと持ったままで並ぶハメにはならなかった。

あたしが精算を待っている間、昇ちゃんはするりとレジを抜けて怠そうにしゃがんでいた。もし昇ちゃんが金髪で、煙草なんか咥えていたら、ただの不良にしか見えないな、なんて考えていたら、精算が終わっていた。

「2154円になります」

あたしが財布を広げ、5千円札を出そうとすると、横から1万円札がするりと伸びて来た。

「1万円からでよろしいですか?」

「おー」

「あたし、154円あるよ」

「いんねぇ」

訳すと、おそらく、「面倒臭いから、お前の154円はいらない」と。

「ならいいけど……」

あたしがそう言うと、店員は1万円からのお釣を素早くレジから取り出し、昇ちゃんに渡す。
昇ちゃんにとってみれば、小銭なんて面倒臭いもの以外の何でもないみたいで、たくさんの小銭を渡されて少し嫌そうな顔をした。

昇ちゃんの財布は小銭でパンパンになってしまい、2つ折りのはずが閉まらなくなっていた。今までずっと札ばかり出していたのが、見ただけで分かる。


精算を終えた籠を移動させ、あたしは手早く買ったものを袋に詰め込んだ。

店員さんは親切に袋を2枚も籠に入れてくれ、トマトと麦茶を一緒の袋に入れなくて済んだ。ふとした拍子にペットボトルの重みで、袋がトマトの汁だらけになってしまう、という事はなさそうだ。良かった。


昇ちゃんは袋に詰め終えるのを横で見て、気怠そうに立ち上がった。
「行こっか」と、レジの横に籠を置きに行く。


少し目を離した間に昇ちゃんはもう、あたしを置いて、出口にスタスタと向かっていた。あたしは、慌てて袋を掴んで昇ちゃんを追いかけるのだけれど。



……あれ?

軽い。


あたしは自分の持っている袋を見て、ポカンとした。あの、重いはずの麦茶とお酢の入った袋を、あたしは持っていなかった。

驚いて前を見ると、あるではないか、あの重そうな袋が。

昇ちゃんの手に。


嬉しいというよりも、胸が急にキュッと苦しくなった。顔が、真っ赤になっていたんじゃないかと思う。

あたしは昇ちゃんに置いて帰られないように、慌てて出口へ向かった。