―2年前


誰だか分からないように帽子を被り、サングラスをして路上でギターを弾きながら歌を歌っていた。通り過ぎていく人、立ち止まってはすぐに去っていく人。その頃の私はひたすら私の為だけに歌っていた。だから周りがどんな目で私を見、どんな捉え方で私の歌を聴いているのか、私は気にせず歌い続けた。悲しいラブソングばかり…
そんな時だった。『あの人』に出会ったのは。


最終曲が終わった時、ギターからふと顔を上げて正面を見た時だった。
「ねぇ、もう1曲歌ってよ」
サングラスを通して見えたその人はとても華奢で初めは男か女か分からなかった。


まだ、時間もあったし珍しく私の歌を気に入ってくれたのだと思い、物好きだなぁと思いながらも期待に応えて歌った。だが、曲が終わるとコメントは思わぬコメントで…
「お姉さんさ、本気で人を愛した事ないでしょ?」
「は?」
「だからこんな悲しい曲ばっかりなんじゃないの?」
カチンときた。確かに恋愛なんて興味もなく『本気』で人を愛した事がなかったのは図星。18年生きてきて『本気』なんてくだらないと思ってきたから。

どうせ永遠の愛なんて無いと両親を見てきて痛感していたし。私の両親はとても不仲。だが、世間体を気にして離婚しないだけの空っぽな夫婦。


「…もう二度と来ないで」

私は彼にそう言い手早く片付けを始めていると満面の笑顔を向けられ…
「明日も来るね」
そう言って去って行った彼の後ろ姿を私は呆然と見送った。


それが『あの人』、関口雅人との出会いだった。