病室の前までくると呼吸を整えてから扉をノックする。
「はーい」
出迎えてくれたのは雅人のお母さん。
「あら、芹名ちゃん。久し振りね。どうぞどうぞ、中に入って」
おばさんはいつもの優しい笑顔で病室内へと招き入れてくれた。私が病室に入るとおばさんは上着を持ち部屋を出ようとした。
「あ、あの、どこか行かれるんですか?」
私が慌てて問い掛けると小さく笑いながら雅人の方を見…
「お邪魔虫は退散するわ。あ、芹名ちゃん、新曲凄く良かったわよ。雅人なんて泣い…」
「母さん!余計な事言うなって言っただろ」
「はいはい、すみませんね。じゃ、芹名ちゃんゆっくりしてってね?」
「はい、有り難う御座います」
おばさんはにっこり笑って軽く手を振ってゆっくりと病室を後にした。先程のおばさんの言葉に雅人は若干顔を赤くして私と視線を合わせてくれない。そんな雅人もまた愛おしかった。