びっくりして目ん玉でっかくしてる俺を見てアイツ眼鏡をグイッて押し上げると、軽く会釈。そのまま家ん中に入ってく勢い。



「ちょっ……待てって!」


思わず呼び止めて近付く。上下白いスウェット姿。色気ねぇ。


「あんたここの住人?」
「………はい」



会話、続かねぇ。



「…………あの、用が無いんでしたら」



用がないだと!?こっちはてめぇのせいで不自由な生活送ってんだっつーの!!



「分かんない?ならいーや」



やりずらい。もういいわ………。



家の玄関に向かって歩き出した時だった。




「あ………待ってください」



-クンっ!-



着ていたシャツの背中を掴まれる。



「何?」



早くその場を離れたかったからちょっと感じ悪い返事になったと思う。
でもそんなの関係なく、そして何のためらいも無く振り返った俺の胸に顔を埋めたんだ。


「はぁっ!?」



何コイツ。抱き付いてくるか普通……。何が狙いだ!?



「やっぱり……昨日助けてくれた人」
「は?」



今更!?



「あ、香水の匂いが。あとまぁ胸元の感覚で…………すいません、目が悪いもので」



覚えんの顔じゃねーのかよ。




「ありがとうございました。お陰様で無傷で過ごせてます」



ペコリ頭を下げた視線の先に俺の右手………。



「これ………」
「大した事じゃない」


右手を後ろに隠す。



「利き手ですよね」
「……そうだけど?」



「わかりました…じゃおやすみなさい」
「はぁ?」



相変わらず無表情のまま、頭を下げるとスススーッと玄関に入ってパタン……ドアを閉める。


「はぁっ!?ふざけんな、なんだよそれ!」

ペース崩されまくり。
無表情だわ、人の事匂いで判断するわ………顔じゃなかったな。皆容姿しか見ないのに。じゃなかった!なんだあれ。掴み所無くてムカつくんだけど。少しは申し訳無さそうな顔とかしてみせろっつーの!


-ガチャッ-


………鍵かけやがった。