-ガチャッ-


「…………ん?」



玄関を開けると……脱ぎ散らかされたハイヒール。アイツか…。


-……バタバタバタ-


「良ちゃんおっかえりぃ♪」



奥から勢いよく飛び出して来たのは母親。バスローブ一枚で抱き付いて来て頬にキスされる。



「元気してたぁ?久しぶりね。この前帰った時良ちゃん居なかったから二か月振りっ☆」
「お袋、仕事は?」



このろくでもねぇ母親は洋服のデザイナー。10代後半から20代前半ぐらいのファッションを中心にデザインしてる。店も何件か持ってるから多忙でほとんど家に帰ってこない。
親父は海外単身赴任だから俺なんか一人暮らしも同然……。


「サンプル溜まったから置きに来ただけ~。すぐ戻るわ♪」



洋服のサンプル。その中から使えそうなのを俺の私服用に拝借してる。お袋もそれを分かっててサイズを合わせて置いてってるみたいだけど……。



「あらっ?良介その手は?」



やっと右手のギプスに気付いた模様。遅せぇよ。


「女助けてボール当たった」
「あら、顔じゃなくてよかったわ~」



頬を撫でられる。親ですら俺の顔しか見て無い。



「着替えて出るわ」



自分の部屋に引っ込んでしまった。相変わらず自分勝手だな、おい。




制服からその辺にある適当な服に着替える。衣類にしろ装飾品にしろうちん中に腐るほどあるから余り執着無い。


-ガチャッ-



「じゃね。ちゃんと食べなさいよ」



リビングのテーブルの上に無造作に一万円札の束を置くとまた頬にキス。


「はい、良ちゃんも♪」


ちょんちょんと自分の頬を指差す。
母親にキスせがまれるってどーよ。


キスしてやるとあからさまに嬉しそう。


「良ちゃんてば最近益々祐介に似て来ちゃって……ママ照れちゃう☆」


親父の子だしあたりまえだろ……。



「あ、そういえばお隣り越して来たみたい。地味ーな感じの子が挨拶に来たわ」
「ふーん……」



それだけ言って慌ただしく出て行ってしまった。相変わらず台風みてぇ………。