「危な……」




慌てて彼を支える。
でも、なぜかバッと身体を引く。

「?」


その行動の意味が掴めず、ビックリして見上げると、微妙に困った顔…そしてこの時初めて聞いた彼の声。


「血が……付くから」



あれ………なんだろ。なんかいい感じに体に馴染む声のトーン。
気を使ってくれたんだ。



「あぁ……汚れても平気だよ。気にしないでつかまって」


ごく自然に、彼の腕の中に収まる。
観念したのか、素直に身を預けてくれた。



この時、私は彼が心を開いてくれたような気がして、すごく嬉しかったのと、同時に自分の中に芽生えたものを自覚したんだ。










結局、彼の顔の傷は、目の上を少し切っていたのと、唇の端を少し切っていて内出血してるのと、腕の裂傷だった。



出血の割に対した傷じゃなくてよかった。



「喧嘩…したの?」

「…………」



無言のままの彼。



腕の傷を消毒して包帯を巻ながら、ちらっと顔を見る。

長めの前髪に隠れた、若干伏せ目がちの表情のない顔。



‐でも……綺麗な顔してるなぁ‐




割と長い睫毛、鼻筋も通ってるし、シミもニキビもほくろすらない綺麗な肌。
こんなの女の子でもなかなかいないよ。なのに所々傷痕になっちゃってる。




「……何?」




その彼が口を開いた。やっぱりしっくりくる声。まるで、パズルのピースがぴたっとはまった時みたい。

気付くと、私は両手ですっぽり小池君の頬を包んでいた。
動揺するでもない、迷惑がる訳でもない、その真っすぐな瞳が私を捕らえる。




「綺麗な肌なのに……勿体ないね。こんなに傷残っちゃって」



素直に口から出た言葉。




「ちゃんと手当てすれば少しは違うから…怪我したらまたしてあげる。私、保健委員だから」




あ、瞼が少し動いた。目が穏やかな気がする。わかってくれたのかな。