「出来た!完璧ですね!」

「ん」

 部屋中に貼り付けた色紙たち。特に弟子の座る椅子の周りには、重点的に蜘蛛を貼った。
 テーブルにはクロスを敷き、盛り付けた色とりどりの食べ物が並ぶ。……あまいものばかりが並ぶ。

「……あまいものしかないのか?」

「ハロウィンですから」

 ハロウィンにかこつけて、自分の甘党を謳歌したいだけだろう。コイツは。

「……コーヒー」

 言ったところであまくないものが出てくる気がしない。取り敢えず飲み物だけでもあまくないものにする。

「ブラックですか?」

「……」

 キッと睨むと、肩をすくめてキッチンに消える。
 しばらく経って戻ってきた弟子の姿に目を見張った。

「……沸いたか?」

「違いますよ!黒猫です!」

 頭には黒い三角の耳。腰から床まで垂れた黒い尻尾。手にはもこもこした手袋をはめている。
 確かに黒猫だが。

「沸いたな」

「……」

 がくりとうなだれて、コーヒーのマグを渡してくる。
 心なしか、作り物の耳もうなだれて見える。

「仮装、か?」

「……それ以外になにがあるんですか」

 恨めしそうに見られても、突然猫耳を付けて現れる方が悪いと思うのだが。

「……師匠もやりましょう!」

「……なにを?」

「仮装ですよ!」

「断る」

「……」

「……」

 お互い黙ったままの硬直状態が続いたが、弟子が意を決したように私の腕をつかむ。

「師匠の分、ベッドのところに置いてありますから!」

 強引に自室の前まで連れて行かれる。
 リビングで待ってますから!と、走っていってしまう。

「……」

 残された私は、仕方なく自室に入ってベッドに歩み寄る。
 白いベッドシーツの上に、黒猫セットがよく映えていた。

「……」