美夜は、どこかで聞いた事のある名だとおもったが、すぐに消えた。

「…素敵っ!!」

美夜は目をまた輝かせ、名前を気に入っていた。

「じゃあ美夜ちゃんは明日からまたの名を坂本龍で過ごすちゃ!!」

満面の笑みで龍馬が美夜に言う。

そんな笑顔満開の龍馬とは違い、美夜は驚きを隠せない表情になる。


「坂本…龍…??…坂本!?どういう事!?」

いきなりの事に、美夜はパニックになって龍馬の肩を掴んで問うが、龍馬はいつもみたいにヘラヘラして。


「だから祝言ばあげるこつやきー♪」

突然のプロポーズ。…と言っていいのか。プロポーズにしてはあまりにも適当すぎる。


「だってわしらもう一年ばたつちゃ。いいじゃろー??」

美夜はもはや言葉を失い、口をパクパクとさせ、まるで魚のようになってしまう。

「そん…な。だって、歴史が…!!」

そう不安そうに龍馬の肩を掴みながら美夜が言うと、龍馬はいつになく真剣な顔をして、美夜の肩を掴む手の片手を掴み握りしめる。


「わしは…本気で愛しちゅう。」


それだけ、言われる。

途端美夜の胸に熱いものが込み上げた後、目にも溢れてくる。

鼻と喉の奥がツン、として視界が滲み、眉間には皺が無意識による。


美夜は決して悲しくて泣いているわけではなかった。

嬉しくて、泣いている。

言葉には表せない感情と嬉しさが、彼女の真珠の様な涙を生み出す。


言葉を紡ごうとしても、紡げぬ。必死でしゃくりあげるも、まだ涙と嗚咽は止まらない。

ただ、美夜が紡げたのはたった一言。


「うれっ…しい…ぅぐ…」


もう、涙で顔がぐしゃぐしゃだった。そんな顔の羞恥心すらも飛ばして、ただひたすら美夜は嬉しさを伝えた。

その一言で、龍馬は満足した。

龍馬は美夜を優しく抱き寄せ、背中を優しくさする。


そんな二人を見て、重太郎はゆっくりと部屋を後にした。



8月。

坂本龍馬、生涯の伴侶、お龍と祝言をあげる。