気まずかった。

もとから話をする方ではないし、女子と机をくっつけて一緒に教科書を持つのが恥ずかしかった。
ぼくの体は小さく丸まって、真ん中に置かれた教科書を遠慮がちにのぞき込む。

何の落書きもされてない、きれいな教科書。


「はい、柴田君。次の段落読みなさーい」

担任はここぞとばかり、その日ぼくをあてまくった。
立って読まなきゃいけなかったから、そのときは教科書を一人で持たなければいけない。

人の教科書をとって読み上げるというのはなんともバツが悪い。

ていうか、ぼくが読んでるとき、藤富千夏は教科書を見ることができないのだ。

ちょっとは考えろよ担任。


「はい、次も柴田君」


またか…。ぼくははぁと溜め息をついて教科書を持って立ち上がる。

次のページに進もうとページをめくる。

「あ」


隣から、小さく聞こえた声。
藤富千夏が手で口を紡いでいる。


「ん、どうかした?藤富さん」

担任が首をかしげる。

「いえ……なんでも、ありません」

「そ、じゃ、柴田君つづけて」

「あ、はい」

ぼくは教科書に目を戻す。


・・・・・・あ。


ちらりと藤富千夏を見ると、少しうつむきがち。


上からだから表情はわからない。