以前こんなことがあった。

先々週の日曜日。ぼくは駅前に新しくオープンした本屋に行ってみた。
そこで、あいつと会った。

藤富千夏。

会ったっていうのは少し違うか。
週刊マンガ雑誌を立ち読みしているあいつを見つけた、だ。
 
気がつくと隠れていたぼく。

そんなとこにいられたら、ぼくが本買えないじゃないか!


「え・・・・・・なんで?」


降ってわいた疑問に自分で首をかしげた。


なんで本を買えないんだ。


普通に下に積んである別の本をとればいいじゃないか。



「あれ、柴田くん?」

隠れていた柱の陰から出たところでバッタリ。

「ふ、藤富」

どもった。
声も震えてた気がする。
気のせいであってほしい。


藤富千夏の顔を見るとなぜか焦ってそわそわしてしまう。
背中に冷たい汗が流れる。
僕は思わず目線を逸らす。


藤富の持ってる雑誌がちょうど目に入った。

「おまえ…それ、買うの?……女のくせにさ。だから男みたいなんだよ」

「は?なにいきなり……意味わかんない!わたしがなに読もうと勝手でしょ!」

ぷいとそっぽを向いてさっさと行ってしまう藤富千夏。


たしかに、意味わかんないよ。



自分でもなんでそんなこと口走ったのか。


だって、


藤富千夏と話したことなんて、数えるほどしかないのに。