琴葉と男は向かい合って座っていた。
ちなみに琴葉の部屋だ。
ドアを叩く音は治まっていた。
「まず、自己紹介をしよう」
「いや、引っ越して来た時にしましたけど」
「こんな状況だ、改めてさせてくれ」
「だがしかし断る」
そんな琴葉の言葉を無視して男は喋り始める。
「俺は雪村季(ゆきむらとき)。206号室に住んでる24歳。ちなみに彼女いない」
「聞いてない」
「…職業は製造業」
琴葉は季をじっと見た。
猫目でキリッとした顔つきで、少しパーマ気味の茶髪。
長さは短すぎず長すぎず。
「まぁ…よく見るとイケメンだな」
※琴葉は面食いです
「よく言われる、否定はしない」
内心琴葉はツッコみたかったが、
こらえて質問した。
「説明してもらおう、何故今私があなたを部屋に上げるハメになったのか。まぁ知ったところで私には関係ないが」
「あぁ…なんか、よく分かんないんだよね」
「は?!」
「俺も2週間前ぐらいに引っ越して来て、5日目ぐらいからあの女につきまとわれるようになって、俺がいる日はあんな感じなんだよね」
「警察行けよ」
「今時の警察が取り合ってくれると思う?それに男が女にストーカーされるって情けなくない?」
「知らんがな」
琴葉はめんどくさそうに返す。
「そして俺はあの女と関わったことがない」
「…知らない人なの?」
「知らなくはない…前住んでたマンションでよく見かけた」
「…雪村さん」
「季でいいよ」
琴葉は嫌な顔をした。
「…季さん。悪いことは言わない、さっさと警察行くべきです」
「えー…」
「それが嫌ならさっさと引っ越すか、あの人の要求を聞いて呑んであげて下さい、私が迷惑です」
「…」
「さっさとお帰り下さい」
