鍵を開けて中に入ると、ふわりとお母さんの優しいニオイに包まれた。


時計を見ると、21時半を超えていた。


「もうこんな時間…」



押し入れから、布団を1組取り出して広げた。


いつもなら、2組の布団を仲良くくっつけて、お母さんと寝ていた。


眠れない時は……恋の話。

【○○君って人が、クラスの女子の間で人気なんだよー】

【姫奈は、好きじゃないの?】


【私は、××君と付き合ってるもん】

【やだー。お母さん知らなかったわよ】

【だって、今教えたもーん】


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[お母さん……××君が浮気してた。私とは遊びだったんだって]



[女はね、苦い恋や甘い恋、悲しい恋……いろんな恋
くのよ。姫奈も、少し大人の階段を登ったのね]



時にはケンカして……


【お母さんのばかっ】


【勝手にしなさい。】


雨の中、家を出て……ずぶ濡れになってきた私に、

【おかえり。濡れたままだと風邪ひくよ。風呂入りなさい。あったかいシチュー用意してあるから】


………今まで優しかったお母さんは、もういない。