雨は止んだものの、上空を覆う黒雲は晴れる事がない。

時折響く雷鳴。

「嵐になるやもしれんな」

リング下で入念なストレッチをしていた龍太郎に歩み寄ってきたのは翡翠だった。

こはくに体を支えられているのは、まだ浸透勁のせいで足元がおぼつかない為。

本人はそのような支えなど要らぬと言い張っているが。

…龍太郎の表情が曇る。

そんな彼を。

「でっ!」

翡翠はいきなり殴った。

「何という面だ丹下、歯を食い縛れ」

「殴ってから言うなよ…」

頬に手を当てる龍太郎。

「だってよ…タイマン勝負に臥龍の力を借りるなんて…」

「それもひっくるめて貴様の力ではないのか」

敗北した翡翠は、龍太郎の準決勝での戦術に全く不満など示さなかった。

「俺が素手の貴様に二刀を使って戦いを挑んだのと同じ事…胸を張って勝利を誇らんか。貴様が意気消沈する事は、敗北した俺への侮辱だ」

「……そうか」

龍太郎の表情に、僅かに笑みが戻った。

「勝てよ、丹下」

翡翠は仏頂面のまま呟いた。