綾人の家に着いたのは、11時をまわろうとしている時間だった。
 もう今日はホテルには戻れない。

 ちょっと呼吸を整えてチャイムを押そうとしたら、その前にガチャっとドアが開いて綾人が出てきた。

「琴美!」

 私の名前を呼んで、彼は強く私を抱きしめてきた。
 ずっとこの強い抱擁を求めていた私は、一瞬で涙が溢れて彼の体を強く抱きしめ返した。

「綾人。ごめん……」
「琴美が悪いわけじゃない。これは、お互いの心のすれ違いだったんだと思う」

 ゆっくり閉まるドアの音を後ろに聞いて、私は綾人の胸の中で一通り気が済むまで泣いた。

 久しぶりに感じる彼の温もり。
 数時間前にも会ったのに、あの時と今では全く心の距離が違った。

 私が思いきって送ったエルへのメールが距離を縮めてくれたのかな。