結局私達が付き合うという事は、職場では秘密にしようって事になった。
 オープンにしても笹嶋さん自体は全く問題ないらしかったけど、私がちょっと困る事になるというのをそれとなく言ったら「なら内緒にしよ」って言ってくれた。
 超人気株の笹嶋さんを独り占めしてるなんて知られたら、化粧室で嫌味を言われるぐらいではすまないに違いない。

 メールは今まで通り「エル」「ミサ」でやりとりしようねって言ってくれて、何だか私はエルという友達も失わなかったし笹嶋綾人さんという素敵な彼も出来て、嘘のように幸福な気分の中にいた。


“エルへ

あなたに会って、正直心臓が止まるほど驚きました。
不思議とこうやってメールをしてると、あなたと笹嶋さんが同じ人だというのは未だに信じられません。
でも、エル……あなたを好きな気持ちはずっと変わらないです。
友達として心から信頼する人だっていうのは、自分が思った以上に不動のものになってました。

外で会う私は、ここでの私とは違うように見えるかもしれません。
同じ琴美なのに、ミサになってる私はあなた本人を目の前にするよりずっと素直なんです。
不思議だね。
私が臆病だからかな……。

あなたの背中温かかった。
サンダル、嬉しかった。

悲しい夢はもう見なくていいかもしれないです。
明日の朝は笑顔で迎えられるといいな……おやすみなさい。

ミサ“


こんな内容のメールをデートした日の夜に送ってあった。
エルからの返信は次の日に来た。


“ミサへ

僕も君からはずいぶん落ち着いて見えたのかもしれないけど、本当はかなりドキドキしてたよ。
ちゃんと僕をエルだと認めてくれるのかも心配だったし、君のプライバシーをほとんど知った状態で職場でも黙って一緒に仕事してた事もどう思われるか不安だった。

でも……やっぱり君は僕が思った通り透き通るゼリーみたいな心の人だった。人を疑ったりする事のない、純粋で優しい人。

ミサ、思わず一緒に暮らさないとか言ってしまったけど気にしないでね。
僕の心はそれぐらい君に夢中だっていう事だよ。
ただ、ライバルがいる事を焦ったのも事実で、ちょっと恥ずかしい。

エルとしての僕を信頼してくれている君を失望させやしないかが今の心配事だ。
僕にもきっと自分でも気付かない嫌な面がたくさんあるに違いないんだ。
そういう部分もひっくるめて、これからまた長い付き合いを続けていけたらいいね。

大好きだよ……琴美。

エル“