雨が上がって、夕日がうっすら地平線の向こうに見えた。
 知らない間に数時間経ってたみたいで、待ち合わせた時間から4時間以上経っていた。

 外に出てから私達は一つの問題をどうしようか迷っていた。
 職場に付き合いを公表すべきかどうか……。
 言ってしまうのは楽だけど、何かと好奇の目にさらされるのは必須だ。
 おまけに私と笹嶋さんだと、私にとばっちりがくるのが目に見えている。
 今から香澄ちゃんの猛烈な嫉妬を感じて背筋が寒くなるぐらいだ。

「とりあえず……秘密って事にしていいですか?」

 前を見ないで笹嶋さんばかり気にかけていたら、ピチャンっと歩いた先に水溜りがあって、そこをふんだ拍子に完全にパンプスが水に浸されてしまった。

「あ……。濡れちゃった」

 私が舌を出して自分のドジを笑ってごまかそうとしたら、いきなり笹嶋さんがしゃがんで私に背を見せた。
「?」
「乗りなよ……背中。その靴じゃ泥んこの公園中歩くの大変だよ」
 私は驚いてさっきまでのお付き合いの話し云々を忘れてしまった。
「いえいえ。そんな、あなたの背中に乗るなんて」
「いいから。早く!!」
 急かされてしまい、私はとうとう彼の背中におんぶされてしまった。
 見てるだけだった憧れの笹嶋さん……心から信頼してるエル。
 私の欲張りな願いが二つ同時に叶ってしまった感じがする。


 彼の広い背中は本当に安心してしがみついてられて、私は初めて自分が女の子になった気分だった。
 ときめくってこういう感じなんだ……。
 心臓がドキドキして、つい涙が出そうになる。
 雨上がりの土からたちのぼる匂いも何だかドラマチックさを演出する一つの小道具みたいな気がする。
 人の少ない公園を私は笹嶋さんの背中に顔を寄せて、その幸せな感覚を味わっていた。

「ねえ……付き合おうって言ったそばから何だけど。一緒に暮らさない?」

「え!?」