「やれやれ……結局、総理は何がなんでも消費税増税を敢行するつもりらしいね……」


党本部会議室の前の喫煙所で、幹事長は疲れた表情で煙草の煙と一緒に呟いた。


「政治生命ですからね……
どうせ政治生命を懸けるなら、もっと別な事に懸けてくれれば良いのに……」


私と幹事長は、うんざりした思いで少し離れた所で財務大臣と立ち話をしている総理の方へと目をやった。


一応、これで党の意見を聞くという義理は果たした訳だ。


後は増税目指してまっしぐら……というところだろう。


すると、その時だった。




「な、無いっ!!」


スーツのポケットに手を突っ込んだまま、いきなり総理が大声を上げた。


「なんだ?総理が何か喚いているぞ?」


幹事長が、何事だといった顔で眉をひそめて総理を見つめる。


「私の時計が無い!!」


時計……?そういえば、総理はロレックスの時計をスーツのポケットにしまっていたんだっけ……


「誰か!私の腕時計を見なかったかっ!こういう丸いのにベルトがついたやつだ!」


腕時計は普通そういう物だと思うが……


ロビーの床を這いつくばって自分の時計を探している総理の姿を見ていると、なんだか切なくなってしまう。


這いつくばるのなら、自分の為では無く国民の為に這いつくばって欲しい。


そんな総理の姿を見ていられなくて、私は総理のロレックス探しに協力しようと思った。


「あれ、マナミちゃんどこ行くの?」


面白がって総理の姿を携帯の写メに撮っていた幹事長が、私を呼び止めた。


「ちょっとトイレまで」


穴でも開いてなければ、スーツのポケットに入れた時計がそんな簡単には落ちる筈は無い。


総理は、時計を落としたのでは無く、きっとどこかに置き忘れたのだろう。


だとすれば、きっとあのあたりか……



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