「に、げてないっ」

「嘘だろ」

「………。」

「どう考えても嘘なんだけど?じゃあなんで今日は一緒に帰んないの」

「…、き、今日は急いでたから!」

「一声かけてくれれば一緒に急いだけど?」

「東條くんは友達と話してたし!?」




そう。私、おかしくない。逃げてないよ。…、逃げたけども!

でもでも、別に東條くんと一緒に帰る約束なんてしてないんだからそんなに怒られる筋合いはない!はず。なのに。


じっと東條くんが私を見る。後ろのコンクリートの塀に手をつくから東條くんの綺麗な顔がやたら近い。


ばっくばっく心臓が飛び出しそうなほど鳴ってるのがわかる。東條くんにもバレてしまいそうな大きな音で全身を支配される。


そんな私を優に見下ろす東條くんはぽつり。言葉を落とした。

じわりと桜色の薄い唇で綺麗な弧を描きながら。





「菜乃が俺から逃げた理由、当ててあげようか」





むせかえるような色気に心臓がきゅんなんて飛び越えてぎゅんとした。

彼は固まった私の頬にそっと指先を滑らせてまたぐっと顔を近付ける。