僕が想像していたよりも痩せて骨ばってしまったカレンの肩は、規則正しい呼吸に合わせて少し動いていて。

今はこうして、確かにここにいるのに。


「残酷だよね…私」

「え…?」

 カレンの言葉に、僕は首を傾げる。

「私、こうしてケンのことを縛るべきじゃないのかもしれない」

寂しげに呟くカレンの表情は、僕からは見えない。
ただ、カレンが言いたいことはなんとなくわかった。

「…私ね、ケンのことが好き。大好きだよ。だけどね、ケン。この世に神様なんて…いないのよ」

まるで、僕自身が死刑の宣告でもされたような。
何か恐ろしいものでも目の前にしているような、そんな気がして。

ただ、カレンの言葉を聞いたまま、僕は身動き一つ取ることが出来なかった。


 「別れましょう」

ややあって、カレンが短く告げた。
僕は、何も言ってあげることができなかった。

本当は、戸惑うべきじゃなかったことはわかっている。
ただ、考えてしまう。

―…カレンは、本当に僕と一緒に居る事が幸せなのか。

僕が今までカレンに言ってきた言葉で、カレンが傷ついていない保障なんてどこにもなかった。
今だって、多分カレンは泣きたいだろう。

それでも、僕のことを思って別れたい、と言っている。
それなら…そのカレンの気持ちを受け入れるべきなんじゃないか…?


「カレンは、別れたい?」

「そのほうがいいと思う。私、これからもっと治療で大変になる。早く…元気にならないと…」

カレンの顔を見ることは、出来なかった。
僕はカレンの思いを受け入れる。


 小さな頃からずっと片思いしてきた女の子を、僕は見捨てる。
一緒にいたいと思っていた、その心に栓をして。


さよならは、言わなかった。