「ケンは、馬鹿だよ…私がどんな気持ちで…ケンを突き放したかわかってるの?!いいんだよ…ユウが何言ったって…私のことなんてほっとけばいいのに!」

顔を上げて、涙を瞳に溜めながらカレンが叫んだ。
僕に別れを告げた日に、どうしてこうやって泣いてくれなかったんだろう…。
そうすれば、お互いこんなに傷つけ合わなくてもよかったはずなのに。

「…私…。死ぬの、怖い。ケンと離れるの…嫌なの…怖いよ」

か細い声ですすり泣くカレンの手を、僕はそっと握った。
カレンはしゃくりあげながら何度もごめんねといった。

「私死んじゃうかもしれないんだよ…?ケンはこれからも生きて、たくさんたくさん、可愛い女の子にも会って、恋をして…だけど、ケンは優しいから…絶対に私のこと忘れてくれない…」

「そうだね」

「私、ケンに幸せになってほしいよ。ケンの足かせになりたくない…ううん、本当は…ずっとケンと一緒に生きたい…のに…」

「でも僕は、カレンを忘れたくない。がんばろう、諦めないで…一緒に生きていこう」

「…っ…ばかぁ…」

とうとう声をあげて泣き出したカレンを、僕は抱きしめた。
そうして抱きしめていれば、カレンを繋ぎとめられる気がして。
僕は何度も何度もカレンの名前を呼びながら、ずっとそうして抱きしめていた。

 暫くしてカレンが落ち着いて、僕はゆっくりとカレンのことを解放した。
カレンはもう涙を拭っていて、何かを決意したように僕を見つめていた。

「ケン、聞いて」

カレンはゆっくりと深呼吸すると、ベッドサイドにあった棚から封筒を取って僕に差し出した。

「私…とても成功率の低い手術に…挑戦してみようと思う…」

手渡された封筒の中には、難しい手術名や病院の名前なんかが書いてある書類が入っていた。
何枚かは英語で、僕に読むことは出来ない。

「ずっとね、怖かった…。どうせ死んじゃうなら…、手術なんて受けなくても、痛い思いなんてしなくてもいいって、思ってたの」

僕は封筒とカレンを交互に見つめると、頷いた。

「アメリカの病院にね、転院してみないかって…。成功すれば、もう再発する可能性も少ないし…きっと、また一緒に…」

「待ってる」

「…うん」


カレンは頷くと微笑んだ。
僕たちはもう一度抱き合うと、ゆっくりと触れ合うだけのキスをした。

「いつ行くの?」

「私の返事待ちだったの。行けるなら、すぐにでもって先生が…。航空券の手配とかもあるから、来月だね…」

「来月かぁ…」

「アメリカ、遠いね」