山道を一人の僧が歩いていた。夜はとうに更けていた。都から故郷に帰る途中で僧は暗く足元さえ見えない山道を足早に歩く。明かりなしで歩く山道ほど暗く怖いものはないが僧は歩き続けた。
「おや」
ぽつんと手に雫が落ちた。
「雨か……」
僧は傘を深く被り直し先を急いだが、雨は強くなる一方だ。そのうちにザアァァと雨足は強くなり僧は途方に暮れた。その時視線の先に明かりがちらついたような気がした。
気のせいかと思いながらも僧はそこへ近づく。
明かりなどどこにも見当たら無かったが朽ちた魔が目の前にはあった。こんなところに?僧は僧は途方に暮れた。その時視線の先に明かりがちらついたような気がした。
気のせいかと思いながらも僧はそこへ近づく。
明かりなどどこにも見当たら無かったが朽ちた魔が目の前にはあった。こんなところに?僧は己でも気づかぬうちに道をそれ、山の最奥に足を踏み入れてしまっていたのだ。
その魔は朽ちていて人が住んでいる気配は無かった。壁に蔦が張りつけられているのがうっすらと見える。
朽ち果てたという表現がしっくりとくる魔である。
僧は魔の戸を恐る恐る押した。ほとんど自然の一部と化した魔だが中はそこまで朽ちていなかった。異様な臭いがしたが僧はそこまで気にせず奥に目を向ける。傍らに火打石を入れていたのを思い出した。闇の中で何度か失敗したが食用の油を筆に浸し火をつけることに成功する。
ぼんやりと見えるようになった魔の中は夜盗にでも襲われたのか物が散乱していた。そろりと奥に進むと襖があったと言ってもかろうじて立っているといった方がいい。僧は興味半分好奇心半分でその襖に手をかけ、それを開いた。淡い光で中を照らす。その瞬間僧は見てしまった。たいして広くない部屋の中央にあるそれを。
まず、見えたのは耕色の袴。それに続き紅、紅梅といった色の鮮やかな内掛。そしてその衣うずもれるように一人の少女が背を丸めて横たわっていた。艶やかな黒髪が蛇のようにうねっている。見れば一目で身分の高い子供だとわかる。
よくよく見れば手には真紅の血のような憂珠沙華が一輪握られていた。だがその花を握るその手は明らかに白い。――――――――白骨。
髪に隠れた顔は白い骸骨。目はぽっかりと虚ろな穴をあけむきだしの歯がずらりと並んでいる。骨となった手には憂珠沙華だけが美しい。まるで今摘み取ったかのように。
僧は思わず息を飲み錫杖を倒した。その時、
「どなたですか」
細い女性の