数学のプリントも終わり、英語の予習をしていた頃、部屋の外から玄関が開く音と話し声が聞こえてきた。
どうやら亮太が帰ってきたようだ。
よかった、無事で。
メールの返信もなかったため、事故にでも遭ったのではないかと心配していたのだ。
部屋の扉が開いたので、おかえり、と言おうと思ったが、言えなかった。
亮太の様子がおかしい。
私と視線を合わせようとせず、必死に痛みをこらえるような顔をして、扉の前に立ち尽くしている。
私は立ち上がって亮太の方へ歩み寄り、彼の腕にそっと触れた。
顔を覗き込むが、やはり私の目を見てくれない。
今の自分の顔を見られたくないようだ。
‥‥具合が悪いのだろうか。
いや、亮太は具合が悪ければちゃんと口に出す。
何か、よっぽどのことがあったのだ。
「どうしたの‥‥‥?」
慎重に聞いてみた。
亮太はしばらく黙っていたが、ゆっくりと私の両肩を掴んだ。
そして私の左肩に自分の頭を乗せて、想像していたよりも低く落ち着いた声で言った。
「‥‥佐藤に‥‥彼女が、できた。」
その時、私は呆然と扉を眺めていることしか出来なかった。
亮太が泣いている。
涙は出ていないけれど、悲しみが溢れ出している。
こんな姿の彼を見たことがなくて、私はしばらく、何も言えないでいた。
